恋敵が現れたという悋気よりも、あのローズマリー令嬢が突然現れ、他人には気付かれなかった現象に対する疑問、恐怖の方が私の心を占めていたのかもしれない。

(恐い……恐い!)

ドクドクとうるさく響く心臓。これは、根拠のない脅威を無意識に感じていたからだった。

逃げるにしても宛てもなく走り続けていたその頭の中で、私は……あのローズマリー令嬢との王都での出来事を思い出していた。






ローズマリー・トルコバス侯爵令嬢。

トルコバス侯爵家とは、貴族派筆頭の一門。現当主のトルコバス侯爵がやり手で、領地経営で収益を上げてはここ数年頭角を現し、議会でも強い発言権を持ち始めたという。

ローズマリー嬢は当主の末娘。歳の離れた長兄が侯爵家を継ぐらしい。



そんなローズマリー嬢が、突然社交界に姿を現したのは、一年と数ヶ月前。

王太子殿下やアルフォード様、アゼリア様の通う王都の学園に、最終学年の始まりと共に急に編入してきた。

侯爵家の末娘。その存在が急に明かされたので、ローズマリー嬢は婚外子なのでは?もしくは下位貴族からの養子か?と密かに囁かれた。その詳細は明らかになっていない。