「もしもし。ごめんだけど、今、取り込み中なんだ。」

 それなら、出なきゃいいのに。

 それでも私の目の前で電話をして、何もやましいことがないということが伝えたいのだろうと彼の僅かに知る性格から推測する。

 だからって、胸が悲鳴をあげそうなほど抉られる思いだった。

『俊哉、今日、誕生日でしょ?
 だからお祝いしてあげようと思って。』

 電話口から聞こえてきたのは、綺麗な女性の声。
 そして初めて知る衝撃の事実。

 誕生日……。知らなかった。

 鼻の奥がツンとして、涙が溢れそうになるのを堪えた。
 私を握る手に力が込められた。

「そういうのもういいから。
 前に、俺、言ったよね?
 大切な人が出来て、もう連絡しないで欲しいって。」

『けど、誕生日とそれとは別でしょ?
 ハッピバスデートゥーユー。ハッピバスデートゥーユー。ハッピバスデーディア俊哉〜。』

 こっちの訴えとは関係なく歌い出した彼女に俊哉さんは溜息を吐いた。

 天真爛漫なと言っていた彼女の性格を垣間見た気がした。