「藤花……。携帯、見た?」

「え、いえ。」

「そうか。でも、うん。出てもいいか?」

「え?」

 彼が差し出した携帯の画面に視線を移す。
 そこには『北村美咲』と表示されていた。

 目を見開いて彼を見つめると彼は私が何か言う前に通話ボタンを押した。

 美咲さんという人が元カノだとは聞いていた。
 今もたまに連絡があることも。

 だからって、今、出る?
 目の前で電話を取った彼は私の手を握った。

 彼の手がお風呂上がりで暖かいせいなのか、私の指先から血の気が引いてしまったのか。
 彼のぬくもりに自分が冷え切っていたことを知った。