隅々まで洗ってどんな顔をして彼の前に行けばいいんだろうとモジモジしていると彼が私を見つけて微笑んだ。

「おいで。乾かしてやる。」

 甘々な彼にコクリと頷いてドライヤーを持って彼の元まで行った。

「ノーメイクなんだよな。」

「ひゃ。あ、あんまり見ないでください。
 あの、こういう時の作法が分からなくて、普通はメイクしておくものなんでしょうか。」

 テンパって余計なことを口走ると笑われた。
 ちょっと前までは笑わない男って言われてたのに、彼、絶対に笑い上戸だと思う。

「作法ってなんだよ。
 普通なんて俺も知らねーよ。」

 でも……。私と違って俊哉さんは……。
 胸がキューッと痛くなって顔を俯かせる。

 髪を乾かしてもらうから良かった。
 俯いてても変じゃないし、ドライヤーの音で何もかもをかき消してくれる。

 優しい手が髪を梳かしながら撫でていく。

 昔のことを気にしても仕方ないのに、涙がこぼれそうなくらいに切なくなった。