彼女から発された言葉には流石の伊織も面食らった様子だ。
つまりは彼女は勝手に嫉妬をしてあんな酷い言葉を平気で言ったということなのだろうか。

「嫉妬して言ったけど全部いい加減なことでしたってこと？　胡桃ちゃんのそういうところ、嫌だ。苦手だよ」
「っ……」
「いい加減なことばかり言って嘘をついて……俺のことは愛してて好きってさ、信用できない。都合良すぎるじゃん」
「は、は……そう、だよね。ごめんなさい……胡桃、もう、帰るね」
「嫌いになりたい……だけど、嫌いになれない」
「え……？」

　顔を再び覆おうとする彼女のことをギュッと優しく抱きしめながら、伊織が「嫌いになれない」と告げた。
その言葉を聞いて驚いたように小さく声を上げた胡桃。

「俺、しばらく胡桃ちゃんのことを信用しない。嘘ばっかりなんだもんね」
「うん……ごめんなさい」
「信用してあげないけど、それでも俺のことを愛してそばにいてくれる？」
「愛してるよ……好きだもん。そばにいるよ。もう、ひどいこと言わないから……そばに居させて」

　伊織は一息吐いて、口元に笑みを浮かべながら「好き」と告げた。その言葉に胡桃も「大好き」と告げて彼の背へと腕を回す。
一度離れて二人は顔を見合わせて笑顔を浮かべあう。クスクスという笑い声に、部屋の中のしんみりとした空気が晴れた気がした。