二人の間に沈黙が訪れるのと同時に部屋をノックする音がした。
光樹の母親から「お客さんが来たから連れてきたわよ」という声がする。誰なのだろうと考える光樹と相変わらず無言の伊織。
控えめに部屋に入ってきたのは私服姿の胡桃。彼女の姿を見るなり伊織は俯き、光樹は舌打ちをした。

「お前さ、よくノコノコと来れたよな」
「ごめ、なさい! ごめん、なさい! ごめん、ごめんなさい!」
「伊織から聞いた。随分と酷い……伊織を傷つけること、よく言えるよねぇ? 本当は伊織のことなんて好きじゃないんじゃない?」
「ちがう、違う! 胡桃、伊織くんが……でも、ごめんなさい!」

 酷く冷たい態度を取る光樹に肩をビクッと震わせた胡桃。チラリと視線を伊織に向けるが、彼は彼女を見ようとはしない。それに心が酷く痛くなった。
伊織のことを好きじゃないのではないかと告げられれば、首を横に振ってそれを否定する。
謝罪の言葉を放ちながら顔を覆って溢れ出る涙をこらえている胡桃を睨みつけながら、光樹が歯をギリッと噛み締める。

「毎回毎回ごめんなさいって言ったら許してもらえるとでも思ってんの? 僕はただ、伊織に笑って欲しいんだよ! 幸せになって欲しい! お前とじゃそれは無理だろうね!」
「ごめんなさっ、い」
「僕は何もお前に死ねって言ってるわけじゃないんだ! 別れてやってくれって言ってるの!」
「や、だぁ……やだ! 別れたくないっ!」
「付き合う前から伊織はお前に振り回されてた。それは伊織にだって責任あるよ! ただ、付き合った日に伊織は嬉しそうにしてて……少しは伊織を大切にしてくれると思ったのに」

 涙をボロボロと流す胡桃のことなどお構いなしに捲し立てる光樹。伊織も俯いて何も言えない状態だった。
伊織のためと思っているようで、光樹は彼女を睨みつけながら胡桃のそばへと歩み寄っていく。
おびえている胡桃へと「消えろ」と一言告げた。

「伊織は人一倍愛情が必要なんだよ。伊織を愛してやれないお前なんて消えろ、消えろよ。僕と小町が伊織にはいるんだ。おまえなんていらない!」
「やだ、やだ! 胡桃、だって好きだもん! 伊織くんのこと胡桃、大好きだもん! 愛してるもん! 誰よりも、好き、なんだもん!」
「もう、やめて……ごめん、光樹。少し出てくれる?」
「……わかった。何かあったらすぐ呼ぶようにね」