その言葉を聞いた途端に光樹の顔色が変わった。きっと些細な口喧嘩をしているだけだろうと考えていた光樹。
しかしそれがまさか残酷で、誰よりも辛い思いをする言葉を彼にかける神経が理解できなのだ。
そしてそんな悲しい言葉で打ちのめされようとも、また彼女との仲を修復することを希望している伊織のことを酷く惨めに思った。

「いいか伊織。恋人だからって言って良いことと悪いことがある。これは後者だ」
「うん……」
「あんな女の言葉はただの戯言さ。言うこと聞いてくれないあてつけに出すわがままだ」
「……うん」
「伊織が今までどんなに辛くて寂しくて苦労してきたかなんて知らないくせに……現状に満足できない餓鬼の言うことなんて聞かなくていい。本気にするだけ無駄だよ」
「ごめん……胡桃ちゃん、いい子なんだ。だから、そんなこと言わないで」

 頭を抱えるような仕草で、彼にも限界が来ていたのだと悟った光樹は窓の外を見やる。
快晴とも言える天気に伊織の心も同じように晴れてくれたら嬉しいのに、などということを考える。
それと同時に、何故あんなに無神経でわがままで自己中心的で人を平気で傷つける女を選んだのだろうかと不思議にも思っていた。

「僕はさ、伊織がなんであんな女を好きになったんだろうって思ってた。恋人になった二人を見てたら、いつか大喧嘩にもなると思ってた。あの女のせいで伊織が傷つくのもわかってた」
「……光樹は、すごいな。いつでも正しいことを言ってくれる。でも、俺は馬鹿だから」
「いつか伊織が傷つくと思ってたから、さっさと別れてほしいと思ってた。あんな女より良い子は沢山いるもんな」