第一話

 始まりはいつも唐突だ。
つい二月前に転校して来た長谷川胡桃が台風の目になるなどということは、隣の席の野津伊織も予測不能だった。

「えへへ、伊織くん。お願いしてもいい?」
「んー……。まあ別に良いけど。どうかした?」
「まだこの地域のことわからなくてぇ……部活無いでしょ? 今から、良かったら胡桃に案内してくれないかなぁ?」
「そんなことでいいの? 別にいいけど」

 転校生というだけでも皆からチヤホヤとされていた胡桃。ふわふわとした愛らしい外見とおっとりとする喋り方の彼女は、男子生徒の庇護欲を掻き立てるには十分だった。
ニコニコと笑いながら男子生徒と楽しそうに話す様子から、次第に女生徒たちからは敬遠される存在に変わった。
その状態でもヘラヘラと脳天気に過ごすことができていたのは、隣の席の野津伊織という恋人がいたからに他ならなかった。
自分の思い通りにならないと不機嫌になり相手を振り回すことに長けている胡桃は、周囲から避けられがちにもなっていく。

「なによ……長谷川のやつ。私たちが案内するって言っても断るくせに」
「本当それ! 今日私、伊織に近づくなって睨まれたし」
「マジ? 最低じゃん!」

 胡桃の近くで彼女に対する不満を爆発させる女子もいる。どうやらそういった女生徒たちは伊織と胡桃の仲を壊したいようだった。
伊織は頭の中でいろいろと考えつつ、そっと「ごめんなさいをしておいで」と声をかける。彼女の性格やクラスメイトたちとのことも考えた上でのことだった。
しかしそんなことを知らず存ぜずな胡桃はヘラヘラと笑っている。