「私は結婚しません。したくありません。私は……地位や富を捨ててでもこの想いを伝えます」

その人物は二人をしっかりと見つめる。

「しかし、あなた様の正体を誰も知らないのですぞ。彼もどんな反応を返すか…」

反対するルーファスに、ライナが静かに言った。

「いいえ、彼ならきっと大丈夫です。彼ならわかってくださいます」

密会はどんどん過ぎていった。



事件が起こったのは、朱国観光四日目の朝のことだった。

朝食を食べるため、アレックスとジャックとともに大広間に俺は向かっていた。この宿では、みんなで食事を食べるシステムになっている。

「きゃあああああ!!」

廊下中にリリーの悲鳴が響き渡る。俺たちは顔を見合わせ、急いで大広間へと向かった。

リリーに何かあったら、と俺の不安が募る。

「リリー!!」

大声で叫びながら大広間の扉を開けると、腕から血を流したリーとイワンの姿がまず目に入った。

「リーさん!イワンさん!」

ジャックとアレックスが二人に駆け寄り、傷口をハンカチで縛って止血する。怪我人はこの二人に任せよう。

何があったのかは何となく理解した。