「どうしたの?」
だから少しだけ、返答するのに緊張してしまう。
「……忘れた」
「え…?」
「箸、忘れた」
本人は未だに無表情。
だけど話の内容は無表情で言えることじゃない。
恥ずかしさを隠してるのかな?
そう思ったら微笑ましくて、思わず笑みがこぼれた。
「……笑った、美羽に笑われた」
「ごめんごめん、もーまた忘れたの?」
実は箸を忘れたのは今日が初めてじゃない宏。
「うん」
「じゃあどうする?やっぱり食堂に行く方が…」
「美羽待っとく」
箸を忘れた人は、毎回食堂に行ってもらいに行くというのに、宏は絶対にそれを拒む。
じゃあどうするのかといえば、私の箸を使うのだ。
私だって待たせるのは悪いため、結果食べさせることになるけど、周りから見ればこれが恋人みたいなことらしい。



