「美羽、大丈夫?痛いとかない?」
ほら、やっぱり私を子供のように思い心配してきた宏。
「だ、大丈夫だよ」
少し後ろから押されて苦しいけれど、笑顔を作って大丈夫だと言った。
私だってこのくらい我慢できるもんね。
なんて思っていたら、突然宏の手が腰にまわされる。
「ひ、宏」
「騒いだらバレるよ、逆に。苦しいくせに無理しない。ほら、俺に任せて」
なんでもお見通しの宏は、私が苦しいことに気づいてくれた。
電車が揺れるたび、人に押されてしまう私とは違って宏はピクリとも動かない。
そんな宏に身を任せると、頑張って耐える必要がなく、すごく体が軽くて楽になった。
「ありがとう、宏」
「お礼を言う必要ないよ、別にこのくらい。それにいつもこんな感じだったよね、雨の日の満員電車って」
だから今日の美羽の様子が変、と言われてようやく気づいた。
そうだ。
確かに私は、雨の日の満員電車の時、いつも宏にくっついていた。
人に押されて苦しかったけれど、宏にくっつけば押されることがなかったからだ。



