江戸時代中期の事

とある嵐の日、暗闇の夜の中でひとつの産声が
上がった。
そして、たまたまそこに通りかかった人斬りに
より抱かれ、その竹でできたかごに入った小
さな男の子の赤ん坊は、しょうがい、誰も想像
出来ない運命を辿るのである。
時は流れ五年後
小さな赤ん坊は五歳になったが、失ったものも
あった。
それは自分をここまで育ててくれた人斬り、
岡田以蔵だった、岡田以蔵は強く、そして冷酷
に、多くの人々を斬った大罪人として、その首を
幕府新政府により討ち取られたのである。
五歳になった子供には、その衝撃は重く、そして
絶望的感情であった。

その少年は生きる場所はなく、信頼できる人も、
友もいず、ひとり暗闇に明け暮れていた。
だが、生きる場所は無くとも、どうすれば生き
残る事が出来るか、彼は知っている。

それはただ人を斬り、奪い、殺すのみ。
そう彼は見て来たのである、自分を逃がすために
身を犠牲にし、幕府の兵士に斬られた以蔵の姿を。
彼は見たのである。

そして、岡田以蔵が残してくれた二本の刀とほん
のわずかの銭を持ち、ただ独り孤独に、人を斬り
続けたのである。

時が経つと同時に、彼はまた独り真夜中、暗闇の
中で、人を斬り、暴れ続けていたのである。
幕府の兵士を斬り、また斬り、そして斬られそう
になった男は言った。
「な、何者だ貴様は!?」
だが彼は無言のまま迷わずその兵士を斬った。
その姿を例えるなら鬼。人を斬る頭の回転は早く。
二本の刀を乱暴に振る舞い、敵の首を一振で討ち
取る。
そしていつしか彼に名前が付けられた。
夜になれば敵の前に堂々と立ち、両腰に付けた
二本の刀を抜き、淡い銀色の光をまとった刃を向け、
たった一振で敵の命を討つ。

彼の名は

「命喰いの銀刀」

三百人という人の命を刀で喰らった
大罪人である。