ただの口喧嘩、があらぬ方向へ向かったところで……
「はい、そこまで」
お馴染み、お兄ちゃん兼世話係の聖が間に入った。
え、どこから湧いて……と驚きつつも、この場を収めてくれるとホッとした……のも束の間。
「2人ともみっともないから…ね」
「せやけどっ…!」
「でも楓斗、僕からも一言」
光邦の言葉を遮ってまで発した聖は、にっこり笑顔で言い放った。
「それはフェアじゃないんじゃないかな」
やっぱり笑顔が黒い。
最近の聖はこんなのばっかり。
そうだった、聖もある意味では普通という感覚が分からない人だった。
常識を少なからず持っているはずの楓斗も期待できない。
発端の元凶であるキレたこの人に、この乱闘を止めることは不可能…。
「全く、どこに行ったかと思えば、そうじゃないかと思ったよ」
「……ん」
淡々と言葉を紡いで事を荒立たせる聖に便乗するのは、気配のなかった空で。

