「もうあの方たちに近づかないで」
「……やだ」
前は失うものなんてなかったのに。
今は、それだけは嫌だと即断できた。
それだけは絶対に譲れない。
「…ッッ、調子にのんな……っ!!」
気を荒立たせてしまったらしい。
振り上げられた手のひらが、降りてくる。
夢を見ているような気分でそれを追う。
また、叩かれる。
瞬時に察知して身構えた時、パシ、と小さく音がした。
来ると思った衝撃は無くて。
一体、何が起きたんだろう。
よくよく見れば、振り上げられた彼女の手首が誰かに掴まれていた。
誰かが止めてくれた。
……助けて、くれた…?
信じられない気持ちで、その誰かに目を向ける。
驚きのあまり目を見開く。
「……なんで…」

