「……」
考え込む私に、影が降りてくる。
これ以上は待たないと言うように光邦の顔が近付いてくる。
「天音…」
妙に色気を含んだ声は、普段の彼と違うものを感じさせる。
一連の流れが、まるでスローモーションのように瞳に写る。
そうしている間に、かつての出来事が蘇った。
——『何したっていいだろ。どうせお前には減るもんなんて無ぇんだしよ』
どうして今、こんなことを思い出したのか分からない。
今のこの状況に、別に嫌な感じはしないけど、何故だかあの頃と重なってしまった。
固まっている間にも、光邦との距離は縮まって、あとほんの数センチのところ。
そんなところで……
「やめろ光邦」
「それ以上は流石に、ね」

