気付けば横に立っていた楓斗に、はは、と努めて笑顔を向ける。
そんな僕に対して、楓斗は顔色ひとつ変えずにある一点を指差した。
「それ、焦がしてるけど」
「え…」
その先に目を向けると、コンロにかけられた鍋が伺えた。
肉をこねるかたわら、卵を茹でていたのを思い出す。
既に火が消えている鍋を覗き見ると、張られていた水は残らず蒸発して、底の焦げた卵が転がっていた。
なんとなく、焦げた異臭が辺りに漂っている。
「う、わっ…」
これは、やってしまった…。
慌てて流しに放った鍋に水が溜まるのを見て、呆然とする。
「お前がヘマとか初めて見たわ」
「うーん、なんだろうね。今どうかしているみたいだ」
「ふーん」
さして興味なさげに相槌を打ってみせる楓斗が今何を考えているかは知らない。

