イチくんが芝生に移動して、斜面に腰を下ろす。
手招きされて、私もその隣に座った。
「ここでみあを見つけたあの日から、ずっと気になってたんだ。この子はどんな風に笑うんだろうって」
イチくんがポツリと呟く。
「同じ学校だって知って、それからは気付いたら毎日目で追ってた。話しかけたいって思うのに、なかなかそれが出来なくて。あっという間に2年になってた」
呆れたように眉を下げて笑うイチくんの横顔を、私は黙って見つめた。
「ずっと見てるうちに、みあが何か理由があって笑えなくなってるんだってことが何となく分かって、赤の他人の俺に何が出来るんだって諦めかけたこともあった。でも、やっぱり諦めきれなかった。校舎から裏庭にいるみあを見つけた時、俺、無意識にカメラ持って走ってた」
……全然、知らなかった。
あの日、イチくんが私のところに来たのは偶然なんかじゃなかったなんて。
偶然だと思っていた出会いは、必然だった。
優しい真実に、胸がじりじりと焼け付くように熱くなる。
「私ね、笑わないで生きていればお母さんが私のことを迎えにきてくれるんだってずっと信じてたの」
バカだろって罵られても仕方ないくらいなのに、イチくんは私が話すのに優しく頷きながら聞いてくれる。
「でも、イチくんに出会って新しい世界を見つければ見つけるほど、自分が変わっていってしまうのが怖かった。私の中からお母さんの存在がどんどん小さくなって、いつか顔も声も思い出さえも思い出せなくなるんじゃないかって思った。だから……」
だから逃げたんだ。
引き返せなくなる前に。

