「そのうち教育実習で母校に行ってくるよ」

「おおっ、なら陸上部にも顔だしますよね。顧問の林先生によろしく伝えて下さい」

「お前、よろしく伝えていいのか?さっきまで他言無用だとか言ってたくせに」

「ーーーあー、そうでしたね。そうでした」
そういえば、京平先輩と話すうちについ昔の自分に戻ってしまっていた。

「でも、林先生にはやっぱりよろしく伝えて下さい。お世話になったんで」

「教育実習なんてまだまだ先の話だぞ」

「それでもいいんです。お願いします」

私があの地に行くことはもうないだろうから。
少しだけ斜め上の夜空を見上げた。

「うんわかった。伝えとくから」
私に気をつかったらしく京平先輩の声は淋しげだった。

それから程なくして駅に着き、それ以上地元の話をすることなく京平先輩と別れた。

別れ際に
「今、樹に彼女はいないよ」
と言われたけれど
「そんな情報これっぽっちもいりませんよ」
と笑ってみせると、反対に悲しそうな顔をされてしまった。