「莉々ちゃん、どういうこと?」


控えめにそう聞いたのは翼くんで、莉々ちゃんはため息交じりに「最悪……」とつぶやいた。


「……最後の思い出にと思って来たのに」


莉々ちゃん、そう言ってグッと唇を噛みしめて、再び消えそうな声で話した。


「婚約者がいるの」


っ?!


婚約者……。
まだ高校一年生で?
私にはわからない世界だった。

まるで、映画や小説の中みたいな話。


「すっごく素敵な人よ。莉々より2つ年上で、ほんっとに優しい人。莉々のわがままだって嫌な顔せず受け入れてくれるの。こんな人、いないと思う」


そう言い切った莉々ちゃんの目から、一筋の涙が落ちた。


「だからっ、もう、早凪と会うのは今年で最後にしようって決めたの。彼と向き合うために。なのに、最後の最後に、こんなお邪魔虫がいるんだもん!ほんっと最悪!ありえないっ!」


「……っ、」


莉々ちゃんは、真っ赤な目をして涙を流したままこちらをまっすぐ指差した。


「莉々……」


莉々ちゃんをなだめようと早凪くんが彼女の肩に手を置いたけど、莉々ちゃんはそれを振り払ってからそのままリビングを飛び出した。