「うるさいなぁ、ほっといてよね」
「ほっとくわよ……あんたのことなんか。安心して、もう関わらないから。っていうか、関わりたくもないから」
「それは、こっちのセリフだからっ!」
さっきまでの険悪なムードはなく、張りつめていた空気がゆるんでいくのがわかった。
完全にわだかまりがなくなったわけじゃないし、許せるわけじゃない。沢井さんのことは、この先も好きになれないと思う。
でもなんとなく通じるものがあって、それを共有することで少しだけ心が軽くなったような気がする。
「教科書はあたしのロッカーに入ってる」
「そうなんだ……」
「ダメだ、やめようって。明日こそはやめるって、毎日思ってた。でも、歯止めがきかなくなって。そうしないと、安心できなくなってた。最低なことをして……ごめん」
「…………」
沢井さんは強い。自分の非や弱さをちゃんと認めて謝ってくれた。
「いつか許せる日がきたら、今度は友達になれるかもね、亜子たち」
私はそう言って沢井さんの目を見て笑った。沢井さんもかすかにだけれど、口元をゆるめてくれたように見えた。



