午後の最初のホームルーム、教室の中はザワザワと騒がしい。

チョークの粉は水で濡らしながら取るといくらかマシになったけれど。

私の心は晴れない。

「柳内さんは、どれがいい?」

突然話を振られて、ハッとする。

「えっと、ごめん。なんだっけ?」

愛想笑いをしながら聞き返す。全然聞いていなかったから、話の流れがわからない。

「自由行動のコースだよ。街中をのんびり歩く散策コースにするか、神社やお寺を廻るか、南野さんは和スイーツを食べに行きたいって言ってるけど」

「あ、あー。亜子はどれでもいいかな」

「どれでもいいって……亜子ちゃん、適当すぎねー? せっかくの修学旅行なのに、もっとテンション上げてかねーと!」

修学旅行を心待ちにしているのか、目をキラキラさせながら語る高木君。

「高木君は小学生みたいだね」

「そりゃ旅行だしな。めっちゃ楽しみ!」

沢井さんたちのことがなかったら、私だって修学旅行を心待ちにしていたはず。でも今は気がかりなことが多すぎて、不安のほうが大きい。

「俺、鹿せんべいあげてみたい。つーか、うまいのかな? 鹿せんべいって」

「さーな。食ってみればいいんじゃね?」

「おー、いいね! 鹿せんべい食ってみたいわ、俺」

「あは、本田君。それ本気で言ってる?」

思わず笑ってしまった。鹿せんべいを食べてみたいと思ってる人がいるなんて。

「うん、めっちゃ本気。どんな味がすんのか気になる」

高木君と同じように目をキラキラさせながら、考えることは小学生並み。