なくなった教科書はどこを探しても出てこなかった。上履きも見当たらなくて、日曜日に新しいものを購入したんだ。さすがに教科書がなくなったとは親に言えなかった。
証拠がないから誰がやったのかはわからないけど、ある程度の推測はできる。
教科書がないと困るから、せめてそれだけはどうにかしたい。そう思ってはいるけど、どうすればいいんだろう。
「あ、あのー、南野さん。おはよう」
私はやってきたばかりの隣の席の南野さんに、おそるおそる声をかけた。
「おはよう、柳内さん。どうしたの?」
「あ、えっと、あの、ね。今日も教科書を見せてほしいんだけど……」
「べつにいいけど、ずっとこのままだと忘れ物点が減ってく一方だよ?」
「うっ」
そ、それは、心得ております。教科によっちゃ、忘れ物を五回すると一回欠席したことになるんだよね。
「ほかのクラスの友達に借りることはできないの?」
「それがさぁ、亜子って友達がいないんだよね。あはは」
笑いたくもないのに、笑える状況じゃないのに笑ってる自分がすごくむなしい。
「じゃあ仕方ないね。それにしても、ほんと幼稚なことするよね、沢井さんって。中学の時は、もっと静かだったのに」
やれやれと言いたげな南野さんは、沢井さんがやったって完全に決めつけている。
「沢井さんと同じ中学だったの?」
「まぁね。ちなみに本田君や高木君とも同じ中学だよ。沢井さんは昔はイジメられっ子だったんだ。それが、高校デビューして変わっちゃった」
「え、イジメられっ子だったの?」