「でも、なんもないようには見えないけど」
「え、あはは。そんなことないよ」
愛想笑いを浮かべてそう言ったあと、教室がある棟から渡り廊下を歩いてくる二人組の女子の姿を見つけた。
あれは、さっき沢井さんと一緒にいた女子たちだ。
こんなところを見られたら、またなにか言われるにちがいない。
それだけは、いやだ。
「あ、亜子、音楽室に忘れ物しちゃったから取ってくるね! じゃあね!」
「え? 柳内さん、ちょっ」
「ごめん!」
本田君の言葉を遮って、音楽室のほうへと引き返した。近くにあったトイレに駆け込み、乱れた息を整える。
本田君に対して、あからさまに不自然な態度を取っちゃった。きっとへんに思われたよね。
しばらくして、トイレから周囲をチラ見して女子たちがいないのを確認した。次の授業が始まるから早く教室に戻らなきゃ。
駆け足で教室に戻り、一目散に自分の席へ。
本田君から視線を感じたけど、気づかないフリをしてやり過ごした。