「どっか痛いとこない? つーか、頭打ったんじゃね? 血とか出てないか?」

血相を変えて慌てふためく目の前の人。矢継ぎ早に質問されて、なにから答えればいいのやら。

痛いとこは?

ない。

頭を打った……?

うーん、よくわからない。

血が出てる?

ううん、大丈夫だと思う。

「大丈夫。亜子はただ寝てただけだよー」

心配そうに私の顔を覗き込む目の前の男子に向かって、明るく笑い飛ばした。

私が倒れていると思って心配してくれたのかな。

「バカだよねー、こんなところで寝るなんて! 大丈夫だから、気にしないで」

「寝てたって……マジ?」

ホッとしたような、でもどこか不安げに瞳を揺らす彼。

「え? うん、マジだよ。座ってたら眠くなっちゃってさ」

こんなところで寝るなんて、自分でもほんとにバカだと思う。きっと、呆れられるよね。

「マジ、かぁ。はぁ、よかった」

思いとは裏腹に、彼は安堵の表情を浮かべて息を吐いた。

「なにがよかったの?」

「てっきり俺が打ったボールが頭に当たって、倒れてるのかと思ったから」

「え?」

あ、野球ボールが当たったと思ったの?

「大丈夫だよ、普通に寝てただけだから」

そう言って笑顔を見せると、「よかった」と言って彼も安心したように優しく微笑んだ。

彼は高校二年生になって初めて同じクラスになった本田 草太(ほんだ そうた)君。

背が高くて、野球部らしからぬサラサラの黒髪に、小顔の本田君。派手でもなければ地味でもなく、どちらかというとオーラがあって目立つタイプ。クラスではいつも笑っていて、明るい人っていうのが私のイメージ。

同じクラスだけど、これまでに話したことは一度もない。

そういえば、こんなにマジマジと顔を見るのも初めてかもしれない。

全体的にスッキリとした端正な顔立ちの本田君は、運動部なだけあってよく日に焼けている。それでいて筋肉もしっかりついているから、なんだかとても大人っぽく見える。

でも目がクリクリしていて、意外とかわいい顔をしてるんだな、なんて思ってみたり。

「ところでさ、なんでこんなところにいんの?」

プールサイドのベンチなんかで寝ていた私に、不思議そうに眉を寄せる本田君。

そういえば、私……。

「あ!」

改めて本来の目的を思い出した私は、ハッとして辺りを見回す。