「普段の会話はめちゃくちゃ変化球だよ。ストレートなのは、柳内さんに対してだけだから。そうじゃないと、伝わらないみたいだし?」

「なっ」

また、そんなことを言っちゃってさ。反応に困るんだって。

でも本田君は笑っていて、冗談なのか本気なのかよくわからない。

もしかして、からかわれてる?

そんな風に思ってしまうほど、本田君には余裕があるように見える。

うーん、よくわからない。

「本田君って意地悪だね」

「いやいや、それは柳内さんな。冷たくするとか言うし。俺、あの時結構傷ついたんだけど」

「そ、それは……っ」

「でもさ、いくら冷たくされても……俺の気持ちは変わらないから」

「……っ」

恥ずかしい。やめてよ、そんなこと言うの。

好きじゃない人に一方的に気持ちをぶつけられるのって、こんな感じなんだ。

太陽も……困ったよね。

今さら気持ちがわかってしまった。

嫌なわけじゃなくて、ただ困るというか。どう反応すればいいかわからないっていうのが本音。

そもそも、本田君って、どんな人なんだろう。

ふとそんな疑問がわいて、授業中の本田君を観察してみた。

意外と真面目にノートを取っているその姿。背筋がまっすぐに伸びて、とても姿勢がいい。

真面目にノートを取っているのかと思ったら、そのすぐあとに机の中に隠した漫画をこっそり読んでいたり。

真面目なのか、そうじゃないのかわからなくて、思わず笑ってしまった。

「じゃあ二十一ページの訳を本田。やってみろー」

「え? 俺?」

それまで漫画を読んでいた本田君がパッと顔を上げた。

「そうだ、おまえだ。よそ見してるから、余裕なんだと思ってな」

「ボブは先日行った裏通りのレストランの感想を、友人のジョージに言った。それなら、表通りのお店のほうが安くて早くてうまい、と。ジョージはそれを聞いて、いい顔をしなかった。なぜなら、裏通りのお店はジョージの両親がやっているお店だったからだ」

先生に英語の訳を当てられると、迷う素振りを見せることもなく、まるで日本語が書かれているかのように答える。

す、すごい。こんなの、私じゃ絶対に無理だ。理解不能な文法や単語が多すぎる。

「うん、正解だ」

その瞬間、教室中から拍手が起こった。

本田君は、どうやら、英語ができるらしい。