「え? 柳内さんが作ったの?」

本田君は目をまん丸くして私の顔を覗きこんだ。その目は『信じられない』と言いたげだ。

「亜子んち、お母さんがいないんだよね。中一の時に病気で死んだの。だから、家事はほとんど亜子がしてるんだ」

「マジ?」

今度は高木君が驚いたような声を出した。

「なんか、ごめん」

「あは、なんで本田君が謝るの? 亜子、ドジだけど料理はわりと得意なんだよ。はい、唐揚げ、どうぞ」

にっこり笑いながら、お弁当箱を本田君の前に差し出す。

戸惑いながら箸で掴むと、本田君はそれを口に入れた。

「うますぎ」

「わ、ほんと? 嬉しい」

「亜子ちゃん、俺も俺も」

「あ、うん。高木君もどうぞ」

「わーい、サンキュー。って、おい……!」

高木君に差し出したはずの唐揚げが本田君に奪われて、あっという間に口の中へ。

「俺の唐揚げがー!」

「うっせー、おまえに食わせる唐揚げはない」

「ひでーな。亜子ちゃん、こいつどう思う? 最低じゃね?」

「あはは、高木君がボサッとしてるからだよ」

「うおーい、亜子ちゃんまでひでーし。この頃、俺の扱いが雑すぎない? 野球と亜子ちゃんにしか興味がない草太なんかより、もっと俺にも優しくしてよ」