そういえば、前にも同じことを言われたよね。そんなにボーッとしているように見えるのか。
その通りなんだけど、あんまり自分では認めたくない。
「おい、口ばっか動かしてねーで手を動かせよ」
どこか不機嫌そうな本田君の声が飛んできた。
「おーい、亜子ちゃん。言われてるぞー」
え、わ、私?
本田君、私に言ったの?
「ご、ごめんね! ちゃんとやるから」
慌ててデッキブラシを動かす。水を含んだそれは、重くてとても動かしにくい。
「いや、柳内さんに言ったんじゃなくて。拓也(たくや)、おまえだよ」
そう言いながら高木君の首に腕を回して、ヘッドロックをしかける本田君。
「うわ、バカ。おま、やめろって」
「うっせー」
「妬くなよ、ちょっと話しただけだろーが」
「だまれ」
「マジでおまえは亜子ちゃんのことになると必死だな」
な、なにを言ってるの。やめてよ。本田君はきっと、そんなつもりで言ったんじゃない。
「ああ、必死だよ」
「ぷっ、認めやがった」
「笑うなっつーの」
どんな反応をすればいいかわからなかったから、私は聞こえないフリをしてデッキブラシを動かし続けた。
こういうあからさまなのは、正直困る。
「本田君、なに赤くなってんのー?」
「ほんとだ、真っ赤だね。なにかあったの?」
じゃれ合っている二人のそばに近寄ってきたかわいい女子二人。



