驚いたのか、草太の身体がピクッと動いた。でも、そんなことは気にせずに、ギュッと、ギューッと腕の力を強くする。
「ここに来れば、嫌なこと、全部忘れられるって思ったんだもん……っ」
「い、嫌なことって?」
「なんで距離を置こうなんて言っちゃったのかな……朱里ちゃんのことだって、嫌だったのに……どうして草太にちゃんと言わなかったのかな……草太は朱里ちゃんに気持ちが向いたりしてないかな……。なんでちゃんと朱里ちゃんに言わないの? どうして毎日待ってるの? なんで一緒に帰ってるの? そう思って、ムカついて。でも、最後に、草太は、亜子のこと……どう思ってるんだろうって……」
今までため込んでいたものが一気にあふれ出した。
「気になって気になって、聞きたかったのに……そんなこと聞いて、嫌われたらどうしようって……嫌われたくなくて……聞け、なかった……っ」
「は、なんだよ、それ」
「……っ」
「俺、そんなにハンパな気持ちじゃないって言ったよな?」
「い、言った、けど、それは、付き合う前のことだもん……付き合ってからは、全然言ってくれなかった」
「そ、それは……そうだけど。朱里のことだって、聞いてくれたらよかったのに」
「き、聞けないよ、朱里ちゃんのこと好きだって言われたら、ショックだもん……っ。前好きだった人で、告白だってしたんでしょ……? でも、振られたんだよね……? 気持ちが移っちゃってもおかしくないでしょ……?」
「そんなこと聞かされてさ、俺がどう思ったかわかる?」
「え……? わかんないよ、そんなの」



