いやいやいやいや。
それ、余計にわかんねーから。
「とにかくごめんっ」
亜子は勢いよく椅子から立ち上がると、バタバタと足早に教室を出て行く。
前を向く瞬間、亜子の目が潤んでいたような気がするのは、気のせいだろうか?
なんなんだよ、いきなり。
ちゃんとした理由も聞かずに、納得できるわけねーじゃん。
立ち上がり、教室を出て亜子のあとを追いかけた。
だけどすでに姿はなくて、どこに行ったのかはわからない。
教室を右に出て行くのが見えたから、階段のほうだとは思う。
くそっ。
どこに行ったんだよ。
「あ、おい。拓也!」
「おー、なんだよ、草太」
偶然すれちがった拓也は、他のクラスのダチに囲まれて笑っている。
「亜子見なかったか?」
「あー、なんか階段を上にのぼって行ったけど」
「そっか、サンキュ」
人をかき分けて階段を駆け上がる。
こんなに必死になって追いかけるほど、俺には亜子しか見えない。
付き合ってから確実に気持ちは大きくなっている。