「亜子」

いつの間にやら草太が席に戻ってきていて、後ろから声をかけられた。

「どうしたの?」

「今日の帰り、暇?」

「今日? 特に予定はないよ」

「俺、部活休みなんだよ。帰り、どっか寄ってく?」

「うん!」

嬉しくて大きな声で頷く。するとクスッと笑われた。

「はは、子どもみたい」

「う、うるさいなぁ。いいでしょ」

ムッと唇を尖らせると、さらに笑われた。

だって初めての放課後デートなんだもん。

それも草太からのお誘いなんて、嬉しすぎるんだけど。

だけどそんなことは顔に出さない。

思わずニヤけちゃうけど、我慢我慢。

「はは、顔に出すぎ」

通りすがりの高木君に笑われた。彼は私と草太の横を通って、自分の席である私の前へと座る。

「亜子ちゃんって、わかりやすいよなぁ」

「う、うるさいなぁ。いいでしょ、ほっといてよ」

「うーわ、なんかカリカリしてるな、今日の亜子ちゃんは」

高木君がからかうように私を振り返る。

どうしてよりによって、こんな席になっちゃったんだろう。

後ろに草太、前に高木君って……。

草太はいいけど、高木君はなにかと絡んでくるから、ちょっとやりづらい。