「ほら、早く布団に寝て?」
「…………」
亜子は本気で俺のことを心配してくれているらしい。昨日の夜のことだって、まるで何事もなかったかのような振る舞いだ。
どう思ってんのかな……。
いや、どう思ってるって……そんなの、迷惑でしかないだろ。
「はぁ……」
「ほら、疲れた顔してる。横にならなきゃ」
「いいよ、もう大丈夫だから」
「ほんと? 無理しないでね」
「してねーって。それより、観光楽しみにしてたんじゃないの? それなのに、俺のせいでごめん」
「あ、ううん。勝手に心配して帰って来たのは亜子のほうなんだし、草太が気にすることないから」
部屋の真ん中まで来た俺は、布団の上に座って壁にもたれる。
同じように亜子も、俺の目の前にストンと腰を下ろした。両膝を折り曲げてかわいく座っている。
おいおい……マジかよ。
布団の上に普通に座ってやがる……。
昨日あんなことがあったのに、警戒心ゼロだな、こいつ。
拓也の言った通り、亜子はほっぺにチューくらいじゃうろたえてないのかも……。
亜子のピンク色のツヤツヤとした唇に目がいく。この唇で、三上と……。
そんなことを考えたら、すっげーイラッとした。
ダメだ、亜子のことになるとつい感情的になって冷静でいられなくなる。



