「ご、ごめん! 亜子、戻るね!」
油断していた俺は、思いっきり胸を押し返されて、後ろへ弾き飛ばされた。
尻もちをついたと同時に、ハッと我に返った。
なに、やってんだ……俺は。
今、なにをした……?
やべえ。
やばすぎる。
走り去る亜子の後ろ姿を見ながら呆然とする。
「はは……っ」
頬にキスするとか……。
マジで……なにやってんだよ、バカじゃねーの。
頭を抱えてうずくまる。いくら抑えられなかったからって、いきなりそれはねーだろ。
「あー……くっそ。完璧、嫌われた……」
だってさ、仕方ないだろ。
修学旅行の夜、風呂上がりの亜子からはとてもいい香りがした。さらには三上にアイスを食わせてやっているのを見て、ムカついた。
なんでだよ。好きじゃねーって言ったよな?
あんまり人にしたことないって、そう言ってたじゃねーかよ。
あんな場面を見せられて、冷静でいられるわけがない。
意味わかんねーよ。
笑って手なんか振ってんじゃねーよ。
まだ……好きなのかよ?
そう考えたら感情が突っ走って、消灯時間が迫ってるっつーのに亜子を連れ出していた。
肩先までのボブカットがよく似合ってて、女の子らしいパッチリ二重のまぶた。背が低くて思わず守ってやりたくなるような亜子だけど、意外と芯が強くておまけに頑固。
こうと決めたらひたすら突っ走る直情型。