「おはよ」

上履きにはきかえていると、後ろから声をかけられドキンと心臓が跳ねた。

「あ、お、はよう」

隣に並んだ本田君の顔を見上げて、笑顔を作る。でも、うまく笑えなくて頬が引きつる。

あれ?

なんでこんなに意識してるんだろう。左隣が異様に熱くて、へんな感じがする。

「ははっ、なんでそんなにカタコト?」

「亜子、実は外人だから。ニホンゴ、ワカリマセーン」

うまく笑えない代わりにジョークを飛ばす。そうしていれば、普通にしていられる。本田君は笑ってくれて、そのまま一緒に教室へと向かう。

教室の中は新学期だからなのかいつもよりざわざわしていて、男子たちが集まって盛り上がっている。

「おはよう。南野さん」

すでにきていた隣の席の南野さんに声をかける。南野さんは、いつも通り小説を読んでいた。

「あ、おはよう」

「南野さんってほんと小説が好きだよね。どんなのが好きなの?」

「なんでも読むよ。でも一番好きなのは謎解き推理ものかな。特にラストにどんでん返しがある物語が好きなの」

小説のことを語る南野さんは目をキラキラと輝かせて、普段大人っぽいのに、とても子どもっぽく見える。

なんだかかわいいな。

「あ、ねぇ。咲希って呼んでもいい? 亜子のことも呼びすてでいいよ」

「いいけど、どうして?」

「だって、友達でしょ? いつまでも名字で呼ぶのもよそよそしいし」