「これが、今月の家計簿と、今残ってる生活費です。」

私は、家計簿とお金の入った封筒を、史郎さんの前に差し出した。



「そう、ありがとう。」

史郎さんは、ぺらぺらと家計簿のページをめくり…
封筒の中のお金をちらっとのぞく。
本当に関心ないんだな。
残念だけど、あんな見方じゃ、手島さんが自分の食料を買ってることも、お昼に店屋物を取ってることもわかってないはず。



「あ、手島さん、まだ足の調子が良くないみたいだから、来月も頼むね。」

史郎さんはそう言って、家計簿と生活費を私の前に押しやった。



「えっ!?そうなんですか?」

手島さんは最近、杖なしでもけっこう動けるようにはなってたし、仕事のことも何も言わなかったから、きっともう私はお払い箱なんだって思ってただけに、すごく嬉しい言葉だった。







「手島さん、まだ足は良くないんですか?」

次の日の朝、私は料理を教わりながら、手島さんに訊ねてみた。



「あぁ、まだ本調子じゃないよ。」

「そうなんですね。」

「それにね…お給料はいつもと同じだけもらえたんだ。
料理を教えるだけでいつもと同じなら、バタバタ働く方が損だからね。」



(えー……)



さすがは手島さんだよ。
言いにくいことをよくもそんなにさらっと言えるもんだね。