突然ですが、武士拾いました

 マユは首を横に振った。大丈夫だよ。私、お母さんが台所に立っているのを見るの好きだからって。
 
 意外だった。マユとはほとんど会話なんてしなかった。いつもマユの横顔を見ているだけ。マユはノリコさんを見ているだけ。
 
 だからマユはずっとボクのことを疎ましく思っているものだと決めつけていた。

「それでもごめん」
「遠慮しなくていいよ。お母さん、半分貸してあげるから」

 マユの言葉に嘘偽りはなかった。実際、小学校の授業参観も、運動会や学芸会も半分はボクのために時間を割いてくれた。さらには忙し過ぎて時間の取れない父に変わって、高校の時の三者面談には、ノリコさんはボクの母親代わりとして出席までしてくれたのだ。