僕は彼女の名前をまだ知らない

「そんなお姉ちゃんも、社会人になる頃には、体も少し丈夫になってきて。

キャリアウーマンとして働き始めた時に、お父さんに出会って、そして結婚した。」



「そんな二人の間に、寛輝が産まれた。」



知らない物語に自分が登場した。

不思議な気分になりながらも、まっすぐにお母さんを見る。




「寛輝は、健康にすくすく育ってくれて、三人はとても幸せな家族だった。
でも、寛輝が幼稚園に入る頃……」




あぁ、もうその話が来るのか……


心臓が、誰かにゆっくりと握られているかのようで、うまく息ができない。

細くなったように感じる喉で、ひゅっと息を吸った。