そこは学校や市街地からも遠いために、花奈だけが知っている場所。
 普段入り口は閉じているのだが、土地の所有者が祖父だからと勝手に入っていた。


 丘の上に一本。
 立派な桜の木があったが、今は季節はずれで花はない。それがまた花奈を寂しくさせた。



「そんなに楽しいかな、クリスマス」

「楽しいよ」



 あるはずのない人の声に驚き、花奈は振り返った。誰だと聞く前に、爽やかに微笑まれて言葉を失う。



「あ。おれ? 咲也。同じ高校、同じ一年。知らない?」

「うん、知らない」



 はっきり言わないでよ、と咲也《さくや》は笑う。


 よく見ればなかなか恰好いい人だ。
 校則違反をしたことのない花奈には茶髪が少し気になるが、歯を見せて笑う姿は子供っぽくて可愛らしいと思えた。