「テニスで有名な選手になる。本当に夢で終わったよ」



 掛ける言葉が見つからない。
 慰めるのも励ますのも違うと思ってしまい、花奈は思った以上に冷たい言い方で質問していた。



「そのこととジャックと、なんの関係があるの?」

「あー。それは……」



 二人は寒さから逃れるためにコンビニエンスストアにいた。
 その一角、カフェコーナーでミルクティーを飲みながら、花奈は咲也の言葉を待つ。


 同じくコーヒーを飲んでいた彼は少し俯いて、赤らんだ顔をしていた。



「実はジャックのこと、知ってんだよ」

「知ってる?」

「あいつ、脱走して一週間帰らなかったことあっただろ?」



 花奈は思い出していた。


 それは春頃。散歩の途中でうっかりリードを離してしまい、ジャックと離れ離れになった。
 どんなに捜してもいなかったジャックだが、一週間後に家の庭で遊んでいた。