郁弥―――――――


さっきまでは『諏訪くん』と呼んでいたのに、わたしがいなくなったとたん、それは、親しげな呼び名にすり変わっていた。

そして呼ばれた諏訪さんも、ごく自然に浅香さんに振り返り、顔と顔を近付けて、気取らない表情を見せ合うのだ。

やがて、浅香さんの手が諏訪さんの肘に掛かり、諏訪さんが浅香さんの正面に回って、前屈みになって………


その瞬間、ガシャンッと、胸の一部が割れた感触がした。


わたしは思いっきり顔を逸らすと、信号が青に変わった瞬間、走り出していた。


はやく、はやく遠く離れたい。離れなくちゃ。
あの二人から。

二人になったらすぐに恋人の空気感を出すなんて、そんなのまるで、まるでわたしが邪魔してたみたいじゃない。
そんなのって……


誰よりもはやく横断歩道を渡り終えたわたしは、もう周囲を見回すことなどせず、一目散に社に向かった。
急いで、パンプスなのに駆け足で。

そうしたところで、さっきの二人の姿が頭から出ていくことなんかないのに。

それは分かっていても、わたしは、とにかく、あの人達から離れたかったのだ。