「……寝具のとこには、なさそうだな」
リビングから続いている和室で段ボールを物色した郁弥さんが、どこに行ったんだ?と不思議声で言う。
「冬服って、何箱あったの?」
「数えたわけじゃないけど、今寝室にあるのは二箱だけなんだ。だから、あと何箱かはあるはずなんだけど」
「行方不明は一箱だけじゃないんだ……」
一箱ならうっかり迷子もありうるけれど、複数個となると、本格的な間違いかもしれない。
「みゆきにも心当たりがないなら、捜索は後回しにした方が賢明かな」
郁弥さんはぐるりと辺りを見回した。
困ったような言い方だけど、顔は笑っている。楽しそうに。
「……どうして笑ってるの?」
探し物が見つからないのに笑っている郁弥さんに、わたしはストレートにぶつけた。
すると郁弥さんはさらに笑うのだ。たれ目の端に、細かい笑い皺が浮かぶ。それがちょっと色っぽい。
「だって、みゆきがいるから」
甘く言ってくる郁弥さんに、それまで凪いでいた心が、急に波打ちはじめた。
郁弥さんと付き合いはじめてから結構時間も経っているのに、いまだに、こういうセリフを落ち着いて受け取ることができない。
そろそろ慣れてもいいはずなのに。
頬を通って耳たぶまで熱くなったわたしは、ぷいっと顔を逸らした。
「なんか、のど渇いちゃった。お水もらっていい?」
誤魔化すようにキッチンに向かい、冷蔵庫を開くわたしを、郁弥さんは相変わらず笑ったまま眺めている。
一緒に住むにあたり、新しく大型に買い替えた冷蔵庫はシンプルなガラスパネルで、ホワイトにするかダーク系の色にするかで散々悩んだものだ。結局、二人で選んだのはホワイトだったけれど、正解だったなと満足しながら、両開きの右側を開いた。
ドアポケットに数本並んでいるミネラルウォーターを取ったところで、奥の中段にまとめて置かれている紙パックのオレンジジュースを見つけ、ふと、郁弥さんへのちょっとした意趣返しを思いついた。