「実は同じ会社だったんですよ。お互いに存在は知ってたんですけど、会話すらしたことがない関係だったので、あのときはお互いに知らないフリをしてたんです」

「ああ、分かるわ。中途半端な顔見知りってところよね。私もそういう感じの人が何人もいるもの」

女性は郁弥さんの説明に非常に深く納得したようだった。


「でもあの朝のことがあったので、次に見かけたときにこちらから話しかけたんですよ」

「まあ、それで今の関係に発展したのね?」

「今の関係、ですか……?」

二人の会話にわたしが割って入った。

「二人は恋人なんでしょう?」

「そう見えますか?」

今度は郁弥さんが嬉々と尋ねる。

「むしろそれ以外には見えないわ。お似合いの雰囲気だし、特にあなたの顔が、あのときとは全然違うもの」

ちょっとからかうように女性は郁弥さんに向かって小さく指差した。

「そうですか?確かにその自覚はあるんですけど」

「やだ、惚気られちゃったわ」

女性は楽しそうに肩を揺らした。

わたしを置いて進んでいく会話だったけれど、『お似合いの雰囲気』と言われたことに関しては、信じられない気もした。

考えすぎる性格で、”わたしなんか…” と思いがちだった自分が、ずっとあこがれ続けた郁弥さんと ”お似合い” と評されたことを、素直に受け入れられるはずなかった。

……はずなのに、『お似合い』と言われ、すごく嬉しいと思っているわたしもいるのだ。