「分かってますよ。やっぱり和泉さんは可愛らしいですねぇ」

ふふふ、と目尻を下げる水間さん。
そして水間さんは、おもむろに右手を持ち上げて――――


わたしの左頬を、ムギュッと握った。
結構強めだ。

「ほら、これで、これ以上嫌なことは起こりませんよ。………たぶんね」

「たふん……」

たぶん、ですか?

そう訊きたかったわたしのセリフは、水間さんにつねられてるせいで、滑稽に崩れてしまう。
だけどなんだかそれが、妙に可笑しく感じた。

水間さんもククク、と愉快そうな吐息を転がして、二人して、目を合わせて笑いあう。

そして水間さんは、今度は優しく、わたしのほっぺたから手を離したのだった。


「……でも、諏訪さんなら、きっと大丈夫ですよ。少ししかお話ししてませんけど、和泉さんのことをしっかり想ってらっしゃるから」

やけに確信めいて断言する水間さんに、ドキリとしてしまう。
その反動なのだろうか、それとも、軽く動揺した自分を誤魔化したいのか、わたしはとっさに言い返していた。

「それも、“たぶん” ですか?」

すると水間さんは大きく首を振ってみせたのだ。

「いいえ。どちらかというと、“絶対” です。諏訪さん、今お見舞いに来てる女の子達のことも見越してたみたいで、そのせいで和泉さんが嫌な思いをしないようにって、色々考えてたみたいですもの」

「え……?」

「ただでさえ自分の看病で疲れがたまってるはずだから、和泉さんにはよけいな心配をかけたくないって仰ってました。意識が戻ったばかりなのに恋人のことをそんなに思いやる人なんだから、きっとこの先、何があっても、諏訪さんは和泉さんを大切に守っていくんだろうな…て、ちょっと感動しちゃいましたよ」

水間さんがそう言い終わったところで、「あ、水間さーん!」と、少し先で彼女を呼ぶ声がした。