僕は走った。


階段を駆け上がり、屋上へ向かう。


階段の上から明るい光が見える。


僕はその光に飛び込んだ。



そこには、九条 栞がいた。


屋上の柵の向こうに、チェックのワンピースを揺らしながら。


「栞!」


思わず叫んだ。


病院で見たあの夢が重なる。


栞は、こちらを振り返る。


「……どうして。なんで来ちゃうの?」


僕は何も言わない。


「覚悟したのに……。
やっと今日死ぬって決めたのに……」


「死ぬなよ!」


俯いていた彼女は、それを聞いて見上げる。


「死ぬなんて言うな。生きてて欲しいんだ」


あの時言えなかった言葉を叫ぶ。


「でも、私のせいで一颯を傷つけた。私がいたら、一颯は不幸になるよ」


「不幸でもいい!お前が生きてるだけで、僕は幸せなんだ。それ以上何も望まない」


「なんで、そこまで言うの?」


なぜかって。


そんなの理由はひとつに決まっている。


「お前が、好きだから」


屋上に風が吹き付ける。


強い風が、2人の髪をなびかせた。