「─────藤澤さん、本当にごめんなさい。助かりましたけど、でも、腕は大丈夫ですか?」

「全然平気です」

スースーと凛子の規則正しい呼吸音を聞きながら、彼の様子をうかがうも本人はケロッとしていた。


こんな時に考えちゃいけないのは分かってはいる。でも、つい考えてしまった。
凛子がうらやましいとかそういうことではなく、彼がサラリとやってのけた力技を目の前にして、単純に男らしいなと感じた。

いくら細身だって言ったって、彼はやっぱりちゃんとアスリートなのだ。


「タクシー待たせてるので、失礼しますね」

いそいそと藤澤さんが帰ろうとしているので、私も慌てて玄関で彼を見送る。

あそこで凛子から電話が来ていなかったら、私たちは二人だけで過ごせていたはず。たとえそれが最初で最後だとしても、その貴重な時間はもう手にできない。
そう考えたら名残惜しくて、切なくなった。

何を言えばいいか分からないが、この気持ちだけは今伝えないとだめな気がした。


「藤澤さん。こ、今度……」

「今度、よかったらリベンジしましょう。森伊蔵」

先に彼に言われて、気が抜けた。

ぽかんとしていたら、彼がふわりと笑う。

「二人で」


はい、とちゃんと返事ができていたかどうかは微妙なところだった。