凛子を真ん中にして挟む形で乗り込んだ車内で、行き先を告げた私に藤澤さんが
「結局どこに行くんですか?」
と聞いてきた。
「私の家です。もうそれ以外選択肢はなさそうなので。今晩泊めます、凛子のこと」
「彼女はいつもこんな感じで?」
「たまーにあります。でもいつもはもう少し意識ありますよ!千鳥足になるので、私が支えて帰ります」
「…………大変ですね」
彼は苦笑いしていた。
ますます言えない、彼女が栗原さんの大ファンだって。
後始末を藤澤さんが手伝ってくれたって聞いたらどんな顔をするのだろう。やっぱり顔面は蒼白かな。
アパートの前に着いたのでタクシーを道路に待たせて、私たちはいったん車を降りる。
だらりと力が抜けた凛子を引きずるようにして敷地内まで連れてきた私も、さすがに足がふらついてつまづきそうになった。
「危ない!」
藤澤さんが片手で私の腕を支えてくれたおかげで、転ばずに済んだ。
ここで転んだら、三人とも共倒れになって凛子はきっと頭から流血したかも。
「重い……でも私の部屋、二階なんです……」
十数段しかないはずのいつものアパートの階段が、ものすごく段数が増えて見えた。
二階に行くだけなのに、こんなに遠く感じるのはなぜ?
ほぼ魂の抜け切った目で階段を眺めていたら、
「あのー、面倒なのでちょっといいですか?」
という藤澤さんの冷静な声。
え?と聞き返す前に、私の肩がふっと軽くなった。
凛子がいない。
気がついたら、凛子は藤澤さんにお姫様抱っこされていた。それも、軽々と持ち上げていたので驚いた。
「もうこの方が早い。部屋どこですか?先に行ってください」
「…………は、はい!」
一瞬ボーッとしてしまいそうになったのを自力で抜け出し、駆け上がるようにして階段をのぼった私は、あとからついてくる彼を見やる。
くたっとした凛子はむにゃむにゃと藤澤さんの胸によりかかり、平和な顔で眠っていた。
もつれそうになる手で鍵を開けて、部屋に招き入れる。
1Kの狭い部屋なのでかなり恥ずかしかったけれど、もうそんなことは言っていられない状況。
藤澤さんは玄関で雑に靴を脱ぎ捨てると、一直線に部屋のベッドを目指してキッチンを通り過ぎ、ゆっくり凛子を下ろしてくれた。