私は頬杖をつきながらナスの天ぷらをひと口食べて、「それで?」と首をかしげて見せた。

「藤澤さんは?守備がすごいんでしょ?」

「なに、柑奈。藤澤職人のファンになったの?」

「そうじゃないけど、窓口で仕事をしてた姿からは野球をしてるところを想像できないから、すっごく不思議で気になってるだけ」


銀行で働く彼は細かい気配りができて、優しい口調でするすると懐に入り込んでくるようなあたたかさもあった。
てっきり真面目に銀行一筋で働いているのかと思い込んでいたので、あの野球のグラウンドにいるのはイメージできないのだ。

そんな私の考えは凛子には話していないというのに、彼女はまるで分かっているかのようにウンウンと何度も同調するから驚いた。

「あーあー、分かる。分かるよ。藤澤職人ってそうなの!やまぎんのファンとしては彼の守備力の高さは自慢のネタなのよ。でもね、残念ながら彼の武器は、それだけなの」

「それだけ?守備だけってこと?」

「うん、そう。打撃の方があまりパッとしないんだよねー。なんていうの、地味。パワーヒッターじゃないからホームランもほとんど打たないし、小回りの聞くコンパクトカーみたいな感じで、単発ヒットとか内野安打とか多くてねー。目立たないんだよね。ほら、顔も普通でしょ?女性人気は全然なくて、テクニック重視のおじさんたちには人気あるかな」

「─────ごめん、凛子が言ってることの七割理解できてない」

「あと二週間でルール叩き込んであげるから覚悟しなさい」

Sっ気たっぷりの鋭い視線を向けられ、私はヒッ!とわざとらしく声を上げた。

「……まとめると、藤澤さんは野球選手としては地味、ということで?」

「そうそう、それだわ」


昔からイケメンに目がない凛子らしい解釈だなあとは思ったが、テレビで見るプロ野球選手は華やかで、いかにもお金を持ってる感じで、まさに遠い存在。

そう考えると、藤澤さんがプロ野球選手に結びつくということはありえない気がした。
社会人野球をしているだけでも、私としてはかなり驚きだったが。