割れるような歓声が上がったのは、やまぎんの応援席からだった。

「柑奈!やった!三塁打だよ!!すごいよー!!」

飛び跳ねて凛子が大喜びする中、私はへなへなとその場に座り込んでしまった。

「応援に力が入りすぎて、立てなくなったあ…」

「ちょ、ちょっとー!柑奈!まだ点も入ってないのにー!」


当の藤澤さん本人は、なんともないような顔で立ち上がって顔やユニフォームについた砂をパンパンとほろっているのだから不思議である。
そうだ、彼は自分のことでは喜ばないのだ。

すでにその視線はホームベースを狙うように捉えていて、今しがた打った三塁打なんて遠い過去のことみたいに放っている。


─────なんて人だろう、彼は。
私の心臓がいくつあっても足りない。

その真剣な表情にときめいてるなんて不純な気がした。


ホームランじゃなくたって、砂まみれになったって、勝ちたいっていう気持ちがちゃんと見えているのだから、それだけでじゅうぶんすぎるほどかっこよかった。
顔はたしかにポーカーフェイスだけど、目だけは嘘をつけない。
ちゃんと闘志を感じられた。


藤澤さんの三塁打をきっかけにして、やまぎんの打線に火がついた。
三番、四番打者が立て続けにヒットを打ち、当然ながら同点に追いついたあと、五番打者があわやホームランかというような犠牲フライを打ち、これで逆転。

六番打者もフォアボールを選び、ダメ押しで七番打者が二塁打を決ったことで走者が一掃され、結局この回だけで四点追加。


さっきまで勝利ムードだった相手チームの応援団は鳴りをひそめて、代わりにやまぎんの応援団が大盛り上がりになった。


最終的に8対4で勝利をおさめ、やまぎんは無事に準決勝へと進出したのだった。


「あーよかった!明日もドームに来られるね!ね、柑奈!」

試合終了後、勝利の余韻に浸りながら凛子が嬉しそうに私の顔をのぞき込んできた。

今日が終わってもまだ明日ある。明日勝てば、明後日も。
彼の姿を見られるんだと思ったら、なんて有意義な夏休みだろうと頬が緩んでしまう。

「凛子……」

「ん?」

「野球って、面白いね」


そうでしょとドヤ顔した親友に、私は小さくうなずいた。