藤澤さんと栗原さんの掛け合いを聞いて、勝手に解釈した。

そうか、私に見せてくれた窓口での笑顔は、偽物だったってわけか。あれは彼からすれば不自然な彼であり、本来の人見知りの部分を押し殺した仮の姿なのだ。

だけど「騙された!」って気にならないのは、今目の前にいる藤澤さんが本当にまさに人見知りオーラを放っていて、疑いようもないからだ。


「お二人は先輩後輩?」

ここで沙夜さんから素朴な質問が投下され、当然栗原さんが親切に答える。

「はい、俺の方が後輩です。社会人三年目ですよ」

「うわー、若い!あっ、今さらだけど名前聞いてもいいですか?もう、今日は一緒に飲みませんか?」

せっかくだから、とビールのグラスを差し出した沙夜さんに微笑んだ栗原さんが、カチンと自身のグラスを合わせた。

「ぜひよろしくお願いします。俺は栗原和義です」

「私は相田沙夜。で、こっちが」

「あ、石森柑奈です」

「藤澤旭です」

どうもどうも、と自己紹介を済ませて改めて四人で乾杯した。


社会人野球どころか野球にもあまり興味のない沙夜さんだから、こうしてうまく二人に話しかけることができたんじゃないかと思う。
下手に予備知識があるとどうしても先入観のようなものが頭をよぎるけれど、それが彼女にはない。

話しているのを見ていると、そういう人の方が話しやすいようだった。

「もうね、ここ一ヶ月で柑奈ちゃんが急激に野球に詳しくなっちゃって!それまではまっったくスポーツ全般興味を示さなかったのに!」

「へぇ、それってお友達の影響ですか?」

「そうです!彼女、栗原さんの大ファンなんですよ。たぶん、今日一緒に飲んだってあとから聞いたら、大絶叫すると思います…」