図々しくも話すチャンスなんてどうせ今日しかないだろうからと、質問攻めをしてみる。
彼は別に嫌な顔はせずに、試合中と同じ感情の見えない表情でボソボソと答えてくれた。
「去年までは為替業務です。窓口に欠員が出たので、新入行員に為替を引き継いでもらって異動しました。練習は、基本的に午後からやってますね。通常の業務は午前中だけです」
「両立って大変じゃないですか?」
「食事に気を遣うくらいですかね、あとは別に」
「あのー、どうして窓口にいる時と雰囲気が全然違うんですか?」
藤澤さんは目を見開いて、まじまじと私を見つめてきた。
こうまっすぐ見つめられるとどうも心が落ち着かない。
聞き方がおかしいのは自分でも分かったものの、言ってしまったものはどうしようもない。
だって、本当にそうなのだから。
窓口にいた時はあんなに親切でハキハキ話し、とてもじゃないが今目の前にいる彼と同一人物とは思えない。
…まあ、野球をしている姿もまた然り、だけど。
明らかに答えに詰まっている様子の藤澤さんに代わって、栗原さんが唐突に吹き出した。
「あははは!すみません、なんかすごい方ですね!フジさん本人にそのあたりのことを突っ込んだ人、初めて見ました」
それはそれは楽しそうに肩を震わせて笑っている隣の栗原さんを見て、沙夜さんまでなぜか笑いを堪えている。
あぁ、空気を読まずにまずいことを聞いたのかも。
「だ、だって全然違うんですもん!窓口では本当に本当に、すっごく気さくで…」
「窓口にいる時のフジさんは、完全に別の人格ですよ」
それは常識とでもいうように栗原さんが答えるので、そうなんですか!?と藤澤さん本人に答えを求める。
その本人は眉間にシワを寄せて、ちょっと納得のいかないような顔をしていた。
「別の人格っていうのも失礼だな。窓口業務についてる時は、持てる限りの力を尽くして営業スマイルをしているだけで…」
「仕事では営業スマイルできるのに、ファンサービスは全然できないって不思議な人ですよねー、フジさんって」
「自分でもそう思う」



