「ありがとうございました。あの時は気の利いたことも言えなくて、すみません。慣れなくて」

「い、いえ!」

気にしてませんよ、と伝わるように両手を振った私は、あの時感じたショックが一瞬で浄化されたのを感じた。

「いきなり話しかけられたら普通はそうなりますから」

「……よく言われます、愛想がないと」

たしかに今現在、彼の目線は下向き、顔もうつむき加減、笑いもしない。でもこれが本当に「人見知り」から来るのならばなんとなく合点はいく。
気になるのは、窓口での彼のこと。

思い切って、じつは、と切り出した。


「もっと前に一度お会いしてるんです。磁気不良になったキャッシュカードを新しいものと交換していただく対応をしてもらったんです」

「キャッシュカード?」

「はい。私そのとき、お昼休みで時間がなくて、それで……」

「あー!なんとなく覚えてます」

彼がここでやっとうつむかせていた顔を上げる。

「あなたがお昼ご飯を食べている間に用意したんでしたね」

「そうそう!それです!お礼も言えなかったので、気になっていたんです!その節はありがとうございました」


はい、というかなりシンプルな返事だけをされたので、あんな小さな出来事のことをいちいち持ち出さなくてもよかったかな、と不安になった。
冷静に考えれば、あの対応はきっと彼にとっては当たり前のことなのだ。

しかし、藤澤さんの反応は予想外のものだった。

「窓口業務は今年から始めたので、手際とか悪くなかったですか?」

「今年から!?」

思い返してみても、無駄のない動きで手元でなにやらパソコンを操作したり、コピーを取ったり、手際が悪いなんて印象はまったくもって抱かなかった。
あれでそう思うのなら、大ベテランはどれだけ早いのだろうか。

「今年からとは思えないくらい、早い対応でしたよ!本当に助かりましたもん」

「そうですか、それは良かったです」

「以前はなんの業務をしていたんですか?あ、野球の練習っていつやってるんです?」